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調整後終値を用いたトータルリターン計算

調整後終値

調整後終値って見たことありますか?例えばYahoo! Financeでは日々の株価の始値、高値、安値、終値に加えて調整後終値(Adj. Close)が記載された表を見ることができます。調整後終値は終値に株式分割と配当再投資の効果を織り込んで調整した数字です。調整後終値を使用するとトータルリターンの計算が簡単にできます。ある期間の最初と最後の日の調整後終値をそれぞれ\(A_1\)、\(A_2\)とすると、その期間のトータルリターンは\((A_2/A_1-1)\times 100\%\)で与えられます。例えばこの値が\(100\%\)ならばその期間で資産価値が2倍になったということです。

調整後終値の計算方法

調整後終値を計算する方法はいくつかありますが、この記事ではYahoo! Financeで用いられている方法について解説します。米国Yahoo! Helpにはその計算方法が述べられていますが、数字を直接使って計算していて分かりづらいので[1]、もう少し一般化した上でまとめ直してみます。

例として、投資開始日(日付1)から今日(日付6)までの終値\(p\)と配当金\(d\)の時系列データから調整後終値を計算します。データを表にまとめると以下になります。

日付終値 \(p\)配当 \(d\)
1(投資開始日)\(p_1\)0
2\(p_2\)\(d_2\)
3\(p_3\)0
4\(p_4\)0
5\(p_5\)\(d_5\)
6 (今日)\(p_6\)0

調整後終値の計算は日付6から時系列を遡って行います。日付6から遡って最初の配当落日(Ex-dividend day)は日付5です。この日の前日の日付4から過去の全ての日までの終値に適用される共通の調整係数は、日付4の終値\(p_4\)と日付5の配当金\(d_5\)を用いて

\(a_{d_5}=1-d_5/p_4\)

と計算されます。一方日付5から日付6に適用される調整係数は\(1\)です。結果をまとめて表を更新すると以下になります。

日付終値 \(p\)配当 \(d\)\(a_{d_5}\)
1(投資開始日)\(p_1\)0\(1-\frac{d_5}{p_4}\)
2\(p_2\)\(d_2\)\(1-\frac{d_5}{p_4}\)
3\(p_3\)0\(1-\frac{d_5}{p_4}\)
4\(p_4\)0\(1-\frac{d_5}{p_4}\)
5\(p_5\)\(d_5\)\(1\)
6 (今日)\(p_6\)0\(1\)

調整係数の計算は考慮している期間の全ての配当落日に対して行われます。配当落日の日付5からさらに遡ると別の配当落日の日付2にたどり着きます。上と同様の手続きによって、配当\(d_2\)に対する調整係数を計算して表2を更新すると以下になります。調整係数\(a_{d_2}\)の値は日付2の前日から過去の全ての日付に対して\(1-d_2/p_1\)です。日付2から日付6(今日)までの調整係数は\(1\)です。

日付終値 \(p\)配当 \(d\)\(a_{d_5}\)\(a_{d_2}\)
1(投資開始日)\(p_1\)0\(1-\frac{d_5}{p_4}\)\(1-\frac{d_2}{p_1}\)
2\(p_2\)\(d_2\)\(1-\frac{d_5}{p_4}\)\(1\)
3\(p_3\)0\(1-\frac{d_5}{p_4}\)\(1\)
4\(p_4\)0\(1-\frac{d_5}{p_4}\)\(1\)
5\(p_5\)\(d_5\)\(1\)\(1\)
6 (今日)\(p_6\)0\(1\)\(1\)

配当落日の日付5、日付2に対してそれぞれ調整係数\(a_{d_5}、a_{d_2}\)が計算されると、調整終値の計算に用いられる全調整係数\(a\)はこれらの積\(a_{d_5}a_{d_2}\)で与えられます。この全調整係数\(a\)に終値\(p\)を乗じると調整後終値\(A\)が得られます。これまでの結果をまとめると以下になります。

日付 終値 \(p\) 配当 \(d\)

調整係数

\(a=a_{d_5}a_{d_2}\)

調整後終値

\(A=ap\)

1(投資開始日) \(p_1\) 0

\(a_1=\left(1-\frac{d_5}{p_4}\right)\)

\(\times\left(1-\frac{d_2}{p_1}\right)\)

\(A_1=a_1p_1\)
2 \(p_2\) \(d_2\)

\(a_2=a_3=a_4\)

\(=1-\frac{d_5}{p_4}\)

\(A_2=a_2p_2\)
3 \(p_3\) 0

\(a_3=a_4\)

\(=1-\frac{d_5}{p_4}\)

\(A_3=a_3p_3\)
4 \(p_4\) 0 \(a_4=1-\frac{d_5}{p_4}\) \(A_4=a_4p_4\)
5 \(p_5\) \(d_5\) \(a_5=1\) \(A_5=a_5p_5\)
6 (今日) \(p_6\) 0 \(a_6=1\) \(A_6=a_6p_5\)

全調整係数の意味

計算された全調整係数\(a\)にはどのような意味があるのでしょうか。

日付6の全調整係数\(a_6\)が\(1\)であるということは、この日の保有株数が1株であるという意味です。日付5の全調整係数\(a_5\)も同様に\(1\)なのでこの日の保有株数は日付6と同く1株です。

しかし日付4から日付2の全調整係数は\(1\)から\(d_5/p_4\)が差し引かれた数になっています。この差し引かれた数\(d_5/p_4\)は配当金\(d_5\)で終値\(p_4\)の株を配当再投資によって新規購入できる株数です。全調整係数は将来支給される配当金を全額再投資することによって得られる株数増加を過去に遡りながら差し引くのです。日付2から4までの保有株数は\(1-d_5/p_4\)です。

さらに日付2でも配当金\(d_2\)が支給されるので、その前日の日付1の保有株数を割り引きます。一株あたりの配当金\(d_2\)で終値\(p_1\)の株を\(d_2/p_1\)株購入できます。日付2における保有株数は\(1-d_5/p_4\)であるのでこの保有数で新規購入できる株数は

\((1-\frac{d_5}{p_4}) \times \frac{d_2}{p_1}\)

です。この新規購入分を日付2の株数から差し引くと、

\(1-\frac{d_5}{p_4}-\left(1-\frac{d_5}{p_4}\right)\frac{d_2}{p_1}=\left(1-\frac{d_5}{p_4}\right)\left(1-\frac{d_2}{p_1}\right)\)

となります。結果が日付1における全調整係数\(a_1\)になっていることを確認してください。日付1の時点で保有している株数は、\((1-d_5/p_4)(1-d_2/p_1)\)株であったということです。表を日付1から日付6に向かって眺めると、日付1の保有株数\((1-d_5/p_4)(1-d_2/p_1)\)が、配当金\(d_2\)と\(d_5\)を全額再投資した結果、日付6に\(1\)になったことが分かります

調整後終値は終値に全調整係数を乗じて計算されます。全調整係数は保有株数を表すので、それに終値を乗じた調整後終値は日付6を基準値とした資産価値を表すのです。よって比\(A_6/A_1\)を計算することで日付6の資産総額が日付1の何倍になっているかを知ることができるのです。以上の結果から量\((1-A_6/A_1)\times 100\%\)がトータルリターンを表すことが分かります。

上述の議論は考慮している期間中に配当落日が3日以上ある場合においても同様に適用することができます。

アルトリア(MO)のトータルリターン計算

ある期間の最初と最後の日の調整後終値の比を取ることで、その期間のトータルリターンが計算できることが分かりました。ここでは早速この結果を用いてアメリカの煙草会社アルトリア(MO)の最近10年のトータルリターンを計算してみましょう。アルトリアの公式サイトのトータルリターン計算機を使って1000ドルを2009年5月8日に投資して10年後の2019年5月8日得られるトータルリターンは\(405.67\%\)でした[2]。一方、米国Yahoo! FinanceのHistorical  Dataで得られる2009年5月8日と2019年5月8日の調整後終値はそれぞれ10.29ドル、51.96ドルです。これらを用いてトータルリターンを計算すると\((51.96/10.29-1)\times 100= 404.88\%\)となり、誤差0.2%で一致しました。

まとめ

調整後終値は終値に株式分割と配当再投資をくり込んだ量です。よって、ある期間の最初と最後の日の調整後終値の比を取ることでその期間のトータルリターンが簡単に計算することができます。複数の投資先候補があるときにトータルリターンの優劣を比較して絞り込みを行いたい場合、調整後終値を用いることで計算が簡単にできるわけです。 

参考文献

[1] “What is the adjusted close?”, Yahoo! Help, https://help.yahoo.com/kb/SLN28256.html

[2] “Tools and Calculators”, Altria, http://investor.altria.com/Tools-and-Calculators